生物の観察や分析から得た着想をものづくりに活かす科学技術は、「バイオミメティクス(生物模倣)」と呼ばれます。
その歴史はとても古くて、1940年代には、植物の種が動物の毛に付着することを模倣した面状ファスナー(マジックテープ)が製品化されています。
しかしここにきて、いろいろな分野においてバイオミメティクスの産業応用が進んできています。
その背景としては、昔ながらの肉眼での生物観察に代わって、電子顕微鏡の進歩によって、肉眼では観察できない生物の特徴を捉えられるようになったことが挙げられるようです。
つまり現在主流の観察ツール、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いることで、生物の表面に形成されたサブセルラー・サイズ構造(細胞内部や表面に形成される数百nm~数μmの構造)の観察が可能となったことで、生物固有の機能を発現させる特徴的な表面構造が発見されて、新製品や新材料を開発するヒントを得ることができるようになったわけです。
バイオミメティクスの活用事例としては例えば、「ハスの葉の表面を模倣したヨーグルトのフタ裏」が有名ですね。ハスの葉の表面には、高さ5~15μmの突起物が20~30μm間隔で存在し、ナノメートルからミクロンレベルの階層性を有する凹凸構造と分泌されるプラントワックスの相乗効果によって超撥水性が発現される、といわれます。この構造を模倣したヨーグルトのフタ裏では、これまではベッタリと付着していたヨーグルトが付着しにくくなって、フタを開けるときに手が汚れにくいなど消費者はストレスフリーになったなど、まずまずは好評といった体です。
最近の例では、可視光線の波長(380~780nm)よりも小さい広い範囲の波長で光の反射をなくし映り込みを減らすことができる、「蛾の眼(モスアイ)」の機能を模倣した反射防止フィルムがあります。モスアイのようにフィルム表面に高さ200nmの突起を100nmの間隔、つまり1mm四方の中に1億個の突起を形成することによって、広い波長範囲にわたって反射の色味が少なく広い視野角で反射率が低いといった性質が得られ、映り込みが少ない、色再現性に優れるといったメリットから、絵画などの額装向けで採用が多いようです。「FIFA ワールドカップ カタール2022」で話題になったVAR(ビデオアシスタントレフェリー)のモニターにも使われていて、SAMURAI BLUEに勝利をもたらす極めて微妙な判定?に貢献したとの話もあります。
こうして見ると産業応用されているバイオミメティクスの多くは、表面テクスチャ(微細な凹凸構造)による「形状効果」を利用した事例といえる気がします。
一方で、バイオミメティクスを活用する際の留意点としては、上述のような負荷があまりかからない静的な用途は別として、機械部品のようにある程度の負荷がかかる動的用途における、形状効果の保持が可能かといったことがいわれています。
こうした点では、微粒子投射処理である弊社の「マイクロディンプル処理®(MD処理®)」は、各種機械部品の負荷のかかるような条件においても表面テクスチャの形状効果を保持することで、長期間にわたり食品粉体の滑り向上と付着抑制を実現するほか、MD処理®はコーティングではないため食品・衣料分野で問題視される「異物の混入」がない上、一般細菌の運動を阻害してその繁殖を抑制する効果が立証されつつあります。
MD処理®はバイオミメティクスを目的に開発した処理ではないのですが、バイオミメティクスに共通するMD処理®の「テクスチャ形状効果」は、機械部品などの負荷のかかる動的な用途でも確実に発現され、食品機械の様々なアプリケーションで採用され、生産性向上や食品ロス、に寄与しています。
さらに負荷のかかるアプリケーションでは、MD処理®の「テクスチャ形状効果」を保持する硬質薄膜ダイヤモンドライクカーボン(DLC)コーティングを被覆する複合処理を提案しています。
弊社のDLCコーティングは、アメリカ食品医薬品局(FDA)を認証しており、食品および医薬品の製造工程に最適です、
食品工場いおいてさらなる生産性向上や安全衛生面での改善を図りたい方々は是非とも、食品分野において抗菌を含めて様々な利点をもたらす「テクスチャ形状効果」、さらにはテクスチャ形状の保持の技術で適用実績ならびに理論構築の豊富な弊社にご相談ください。